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なぜノウハウは企業全体で活用されないのか? 属人化解消の考え方とは

ノウハウ継承から考える属人化との向き合い方
人が話し合うイラスト

0.はじめに

「ノウハウ」とは"know-how"から由来し、昨今では経験的に身に着けているがうまくことばにできない知識を意味する「暗黙知」の文脈で使われることが多くなりました。現在、多くの企業でこのノウハウの継承が課題となっています。すなわち、「暗黙知」を言語化された知識・情報として保存、利活用できる「形式知」に転換していくニーズが高まっており、すべての企業に共通する背景として、「業務の属人化問題」が挙げられます。
本コラムではこの「属人化問題」を、「ノウハウ継承」の観点から解決する方法を説明します。

1.ノウハウ継承の重要性

~属人化がもたらす業務への影響~

属人化による課題

属人化とは、特定の人物に業務が依存している状態を意味します。これによるデメリットは多く、例えばイレギュラー対応時に顕れます。担当者に欠員が出た場合の対応の遅延や、代わりの人員がいないことによる休日出勤も起こりえます。また、対応後の改善プロセスにおいても、属人化している場合、第三者評価が難しく、根本的な解決につながらないケースがあります。これは、長期的に見れば、既存事業の継続困難という致命的な問題に発展しうるのです。
属人化問題は企業体質や文化と根本でつながっているため、どれか一つの事業というよりも、全体の事業で同様の問題が発生していることがあります。属人化の解消、すなわち「標準化」や若手への「ノウハウの継承」は、企業にとって非常に重要な課題といえます。

なぜ属人化が発生するのか

なぜ属人化が発生してしまうのでしょうか。
第一に、短期的なメリットが大きいためです。業務を素早く遂行することに重きをおけば、当然、その業務を熟知した人物に任せることが短期的には効率が良くなります。
第二に、育成コストがかかるためです。利益追求を主目的とする企業において、人材育成は短期的に大きなマイナスとなります。
そして第三に、労働人口、とりわけ将来的な担い手である若年層の人口減少という環境要因も忘れてはなりません。
こうした課題を解決するために、ノウハウとその継承について、私たちはどのように考えたらよいでしょうか。

2.ノウハウ継承のプロセス

~標準化の考え方~

私たちがノウハウと呼んでいるものはなにか

そもそも「ノウハウ(暗黙知)」とは何でしょう。筆者はこれを「ある作業の遂行に伴う、断片的、あるいは、一連の思考の傾向」と定義しています。
ここで、例として「鉛筆で木を描く」という作業におけるノウハウを考えてみましょう。下図はその一例です。

断片的な思考と連続的な思考の例

断片的な思考は、「鉛筆で木を描く」ことのみならず、絵を描く作業全般に使えるコツといえます。対照的に連続的な思考は、「木」の分析という、描く以前の思考です。つまり、ある一つの作業の前後には、さまざまな思考プロセスが潜んでおり、私たちはこれを総じてノウハウと捉えているのです。
また、このプロセスは人によって微妙に異なります。例えばある人は木を描く際に、枝ではなく葉っぱから描くかもしれません。同じアイデアや思考をもっていても、個人によって癖や傾向があるのです。
まとめると、ノウハウとは、ある一つの作業に伴う特殊な個々の知識や、作業の前後を含めた一連の思考の総体と言えます。

ノウハウ継承と標準化のハードル

ノウハウは、一般的な生活を送っているだけでは身につかない知識や考え方です。だからこそ、その継承や標準化には、特殊なプロセスを経る必要があります。それをわかりやすく表しているのが「SECIモデル」です。

SECIモデルについて

今日の日本において「ノウハウ」と同義的に扱われる「暗黙知」ということばは、1967年にマイケル・ポランニーという学者によって「形式知」の概念と共に提唱されました。これを先駆けとして、日本では1996年に、野中郁次郎(一橋大学名誉教授)が「暗黙知」と「形式知」が、個人と集団の間で移動することによって発展するという主張を展開します。これをもとに、竹内弘高(ハーバード大学経営大学院教授・一橋大学名誉教授)とともに、組織内におけるノウハウ発展のプロセスを図式化したのが「SECIモデル」です。

SECIモデルのサイクル

このモデルは、上記4点のプロセスの循環を表しています。「SECIモデル」が指し示すノウハウ継承のポイントは、ノウハウが血液のように常に循環している点です。逆に言えば、この循環の停止こそが属人化とも言えます。

3.ポイントは表出化と結合化

~ノウハウの残し方と創出~

「表出化」プロセスではなにが大切?

ノウハウと一口にいっても多種多様であり、最初からそのすべてを標準化するのは非現実的と言わざるを得ません。そのため、標準化すべきノウハウの優先順位を各企業が考える必要があります。
例えばDNPでは、「デザインシンキング」の手法を活用するケースがあります。過去事例では、「デザインシンキング」を活用したワークショップを通じて、顧客が抱える表面的な課題から真の課題を再定義し、標準化すべきノウハウ選定の基準を明確化しました。表出化するだけなら、インタビューやアンケート等、さまざまな手法が考えられます。しかし、限られたリソースの中で効率的に成果を出すためには、表出化すべきノウハウと、対象者に適した施策を実行する必要があります。

「結合化」ではなにが大切?

~イノベーションのための社内DBへの格納を考える~

これまでに説明した課題の解決や予防のためにも、ノウハウを複数結合させ、新たな知を育むことが大切です。
表出化したノウハウを過去データに結合する際、最も重要な点は、「新たな知の創出を前提とした仕組みづくり」です。既存の社内DBに格納するだけでなく、いかに活用しやすい状態にするかが大切になります。例えば「サービス開発をする際、どのようなシーンで、どのような業務担当者が、社内DBにアクセスするのか」といったペルソナ研究も効果的でしょう。

生成AIを活用した理想的な結合化

DNPでは、既存の社内DBと表出化したノウハウを、生成AIによって結合させることが議論されています。
例えば下図のように、生成AIを活用し、チャット形式で、だれもが、いつでも、社内ノウハウを結合化できるようになったらどうでしょうか?

生成AIを活用したノウハウの結合

DNPが考える生成AIは単なる検索機能ではありません。例えば、「複数の複雑な帳票の統廃合」という課題に対して、必要な過去データを自動的に学習し、最適と思われるフォーマットを複数生成する、といった作成フェーズまでを遂行してくれるものです。結合化は、過去ノウハウを活用してあらゆる事業に臨機応変に対応するという、企業基盤の強化を図ることにつながります。

4.まとめ

属人化は、さまざまな企業の課題となっています。しかし、この課題は企業基盤の向上というチャンスでもあるのです。
グローバリゼーションやDX推進、サービス事業の変遷等、世界を取り巻く大きな潮流の中で、ノウハウをどのように循環させ、新たな知を創出できるのか。血液のようにノウハウを巡らせるための、長期的な企業努力が必要となります。

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参考サイト

SECIモデルとはなにか?知識変換の4つのモードを事例を踏まえてわかりやすく解説 | Promapedia(プロマペディア) 別ウィンドウで開く

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